2020.05 .23
関西NGO 協議会 代表理事 三輪 敦子
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて都市封鎖や外出制限といった対応が取られています。
これらの対策は、すでに周縁化され、脆弱な立場に立たされてきている人たちに、
さらに大きく深刻な影響を及ぼしているという意味で、人権の問題です。
それは孤立にとどまらず、排除や暴力、場合によっては死といった結果を引き起こします。
外出制限や社会的距離政策が感染防止に必要な対策だとしても、生活が苦しい人を始めとして、
これらの対策を実行するための、経済的、社会的、人的資本を十分に持たない人々にとって、
現状は彼女・彼らの人権を直接的に脅かしています。
継続的な外出制限やテレワークは家族内のストレスを高め、DVの増加・悪化につながります。
家庭が必ずしも子どもにとって安心・安全な居場所ではないことも懸念されます。
非正規労働者、技能実習生、そして外国人で女性、障害者で女性など複数のアイデンティティによって複合的な影響を受ける人たちの状況は特に深刻です。
在日コリアンをはじめとする日本で暮らすマイノリティの方々が十分に日本政府による支援や補償を受けることができるのか現段階では具体的に示されていません。
さらに難民の方々、入管に収容されている方々の状況も心配です。
国際人権条約上、保障されるべき人権が日本では継続的に無視されてきているという現状もあります。
これらの人々も含め、全ての人の人権が保障されることが重要です。
緊急事態という名の下で都市封鎖が徹底的におこなわれることにより、市民の自由な活動や人権が制限される事例が世界各地で報告されています。
インドでは市民の平和的な抗議活動の拠点が撤去されました。
EUに加盟する13カ国は、パンデミックを理由として政府が民主主義と人権を制限する方向へ進んでいくことを懸念し、共同で声明を採択しています。
このような状況下で、公共の福祉を守るために、ある程度の不自由を受け入れよう、あるいは一定程度の個人情報を提供しようと思えるためには、民主的で透明性のある政治によって市民からの信頼を獲得し、十分な説明責任を果たす政府の存在が重要になります。
日本の状況を考えたときに、政府の中心にいる政治家は、「取り残されている人たち」「取り残されがちな人たち」の目線に立った発言をしているでしょうか。
対策が根拠や科学的知見に基づいているかが丁寧に説明されているでしょうか。
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受けて、市民社会組織に対する支援の激減が懸念されています。
一方で、この100年に一度と言える危機が、国内の困難な状況だけでなく、世界で困難に直面する多くの人々の存在を改めて認識する機会、「私たちも大変だ、だが世界にはもっと大変な人たちがいる」ことを実感として感じられる機会にならないかと思っています。
それにより、日本ではなかなか根付くのが難しい寄付文化の醸成、お互いを支えあう仕組みの強化が生まれないでしょうか。
グローバル化した社会での感染症は、グローバルな対応でしか解決できません。
一国のみがこの状況から抜け出すことなどあり得ず、世界各国と協調し協力しなければならないことは多くの市民も認識しています。
これまでの日本の社会や生活は世界との結びつきと恩恵によって支えられていました。
そのことが新型コロナウイルス感染症によって、一層、明らかになったと思います。
危機から回復する道筋では、こうした相互の関係をより理解し、世界的な共生・共存・連帯の大切さをより実感できる社会になればと思っています。
市民社会組織は、そのことを丁寧に伝える必要があります。
これは「誰一人取り残さない」をスローガンとするSDGsの達成とも深く関連しています。
それを実現する一つの仕組みとして、国内支援と国外への支援をマッチングさせた寄付などが考えられないでしょうか。
今後、パンデミックによる危機から社会が回復するために、市民社会の持つ知見を集積し、求められる支援や有効な対策について発信していく必要があります。
以上
2020年4月16日に開催した「関西のNGO間における「新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に関する情報共有会」の閉会挨拶に加筆しました。