(作成:関西NGO協議会)
2021年7月2日(金)JICA環境社会配慮ガイドライン改定に係る諮問委員会に参加されている学識経験者、NGO関係者にご協力をいただき、NGO/CSOを中心にブリックコメントに向けた勉強会をオンラインにて開催いたしました。当日は、全国から多くのNGO/CSO関係者に参加いただき、改めてお礼申し上げます。
過去の諮問委員会の議事録は公開されており(末尾参照)、7月中旬にはパブリックコメント実施の案内がJICAウェブサイトに掲載される予定です。引き続き、パブリックコメントにも参加いただけますと幸いです。
最初に共催団体を代表して、堀内葵(国際協力NGOセンター)より開催の趣旨が説明され、その後、司会の栗田佳典(関西NGO協議会)から、以下5名の講師の紹介とともにJICA環境社会配慮ガイドライン(以下、環境社会配慮GL)の総論、および3つの各論、最後に異議申し立て手続きの順でプログラムが進められました。
田辺さんからは、ガイドライン改定の仕組みと課題、とくに、支援のプロセスと情報公開を中心にお話をいただきました。JICAとJBICの統合を契機に2010年に環境社会配慮GLが刷新され「10年ごとに見直す」ことが規定されており、今回が10年目の改定の年に当たります。改定案の論点は数多くありますが、田辺さんからは、特に支援プロセス、情報公開の観点から、今回の改定案で達成できたこと、そして今後の課題について以下の通り説明がされました。
まず、提案として受け入れられたこととして、代表的なものが2つあります。一つは、エンジニアリング・サービス(E/S)借款における問題発生時の環境レビュー方法を規定できたことです。これは、インドラマユ石炭火力発電事業ではE/S借款中に用地取得等による生計手段の喪失など実害が発生していたことが改定の理由となりました。もう一つは、協調融資におけるEIA(environmental impact assessment、環境アセスメント)公開期間短縮化の回避です。
達成されなかったものは、海外投融資(企業への貸付や出資)の場合、EIAの公開期間が、迅速化の名目のもと、従来の120日から60日に短縮された点、次に、実施中のモニタリングレポートの公開が要件にならなかった点です。現状、相手国の了承により公開できる条件はありますが、相手国が拒否したら公開はできません。他方でADB(Asian Development Bank、アジア開発銀行)では一律に公開することが規定されています。大気汚染物質や水質汚染データなど、住民の健康に直結するデータがモニタリングレポートには書かれており、本来、こうしたデータは周辺住民に公開され、汚染物質の影響を受けないことを明らかにすべきですが、公開を要件にするまでには至らなかったと報告されました。
ES借款:プロジェクトの実施に必要な調査・設計段階で必要とされるエンジニアリング・サービス(現場詳細データの収集、詳細設計、入札書類作成など)を本体業務に先行して融資する仕組み。(JICAウェブサイトより抜粋)
*詳細は以下のプレゼンテーション資料をご確認ください
*JICA環境社会配慮ガイドラインの包括的検討にかかる、助言委員会、WGの議事要録、助言内容は、JICAのサイトに掲載されています。
https://www.jica.go.jp/environment/guideline/consideration.html
開発の影響で不本意ながら移転しなければならない人々(非自発的移転住民)の人権的配慮が今回の改定でどのように変わるのか、事例と合わせ報告をいただきました。また、環境社会配慮GLは、本文のほかにFAQや別紙が設けられていますが、その中で、「非自発的住民移転及び生計手段の喪失は、あらゆる方法を検討して回避に努めなければならない。」と明記されています。そのほかにも移転する人たちが貧困化しないことへの配慮や、プロジェクト中に苦情処理をおこなえるメカニズムをプロジェクトに実装することが求められています。
今回、木口さんからはJICAが海外投融資で出資しているミャンマー・ティラワ経済特別区の非自発的住民移転の事例が報告されました。この開発のために設立された「ミャンマー・ジャパン・ティラワ・ディベロップメント社」にJICAが出資していますが、2012年には約900世帯の立ち退きが決定されていました。しかし、ヤンゴンの管区政府は、軍事政権下の過去の開発で不当に立ち退きを迫られ、開発が頓挫したことで、元の場所に戻っていた住民を不法占拠者とみなし、当初は移転地の用意や補償をおこなわず事業が進みそうになっていました。
環境社会配慮GL上は、住民移転計画を、もし、住民が先住民族であれば先住民族計画というものが提出されなければなりません。また、関連文書の入手と情報公開が定められていて、EIAを120日以前に公開することが規定されています。この事業では、ミャンマー政府が突然立ち退き通告をしました。こうしたことは、JICAが援助対象とする事業で起きてはならないことです。(日本の)外務省がミャンマー政府を説得し強制移転は回避されました。本来、合意の上での移転はもちろんですが、移転先での生活水準の保証など、JICAと相手国政府はガイドラインを尊重し協力する義務があります。
今回の議論で獲得したのは、改定ガイドラインでは住民の補償基準が公開され一貫して適用されることになったことです。ティラワの場合は、非公開で住民は内容を確認することが出来ず混乱が生じました。合意される補償内容は文書で対象者に説明され、いつでも当人がその内容を確認できるように改定される予定です。
また、FPIC (free, prior and informed consent、自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意)もコンサルテーションがconsentに変わり、新しいガイドラインに盛り込まれる予定です。ただ、この点は十分議論を深めることができませんでしたので、先住民族のことに詳しいNGOからもFPICに関して、パブリックコメントで意見を出していただければと思います。
木口さんは、田辺さん同様、海外投融資のEIAの公開規定が120日から60日に短縮された点について指摘されました。規模の大きな事業、従前より問題のある案件などは、検討時間が短いと地域の住民や支援するNGOが十分に対応できません。そのまま進めれば問題がさらに大きくなることが懸念されます。また、モニタリングレポートの公開も要件とならず、達成できなかった課題として伝えられました。
*詳細は以下のプレゼンテーション資料をご確認ください
今回の改定で特に大きな論点となった気候変動と自然生息地の2つについて説明がありました。気候変動に関して、現行のガイドラインではJICAの事業による温室効果ガス(以下GHG)排出の削減効果を評価する考え方を基本的に取っており、GHGの排出量を環境影響として捉え、それを確実に削減することを担保する仕組みにまでは至っていないということでした。ガイドラインの改定においては、パリ協定や日本政府のカーボンニュートラル方針、「原則として石炭火力の輸出はしない」と明記した新インフラ戦略を受けて、いかに:JICA事業にかかる排出の削減を担保するかが重要と考えますが、序などにおいて理念的な言及がされている以外に、排出を回避、削減するような内容になっていません。排出量推計と排出削減代替案の分析については論点となりましたが、事業によるエネルギー消費やサプライチェーンにおける間接的な排出の推計についてはデータ入手が困難であるなどの理由で対象には含まれません。また、代替案分析については、例えば石炭火力の目的は電力を発電するということなので、よりCO2の排出が少ない発電オプションを含めた検討をすべきと考えますが、同一技術の中でのみ分析する立場をとっています。結果として、理念的なことは書き込まれましたが、排出量を減らしていくための実質的な取り組みは、十分とは言えない状況です。改定ガイドラインが10年ごとですので、2030年は排出量を半減させている段階です。そして、10年後から見るとカーボンニュートラルまで20年しかありません。石炭火力発電所を作れば、30~40年は排出量が固定されます。本来は、こうしたことを避ける手立てをあらゆる段階で今から入れていくべきでしょう。
次は自然生息地についてですが、現行ガイドラインでは国立公園などの保護区は、その中では事業はできないことになっています。今回、それを撤廃し、代わりに生態系を脅かすリスクの高いところは重点的に守るという、「リスクを基にした保護の条項」を入れたいということでした。結果的として、保護区条項は、他の委員からの反対もあり残ることになりましたが、保護区条項を撤廃しない代わりに、リスクに基づく施行も断念することとなり、現行と変わらない結果となりました。生物多様性の悪化が進む中、他のガイドラインと比較しても、現行通りでは不十分であると考えられます。
最後、環境社会配慮GLを適用する段階において、GHGの削減を理念にとどめるのではなく、具体的な施策をたてていくことが重要であると伝えられました。その中でも、石炭火力は大規模排出源であり、代替案も存在するわけですので、政府が閣議決定で原則援助の中止を決定している以上、環境社会配慮GLにも反映すべきではないでしょうか。また、長期的に排出量が固定されるものは、やはり排除すべきとの考えが述べられました。
この10年の間に、方法論推計の仕方など科学技術が発展しています。データベースも蓄積され、特にNGOはこうしたデータの蓄積に貢献してきたことが伝えられました。日比さんは、こうしたデータの積極的な活用を望まれ、また、生物多様性オフセットについても諮問委員会の中では十分な議論に至らず、実施に向けては丁寧に進めていく必要がある点も指摘されています。
*詳細は以下のプレゼンテーション資料をご確認ください
まず、環境社会配慮ガイドラインになぜジェンダー視点が必要かについて、開発協力事業が行われる際、ジェンダー平等にマイナスの影響を及ぼすことがあることから、それを回避、緩和するためであること、また、開発事業を通じてジェンダー平等を進めることが必要であることが説明されました。
現行のガイドラインでは、①チェック項目の一つとしてジェンダーが含まれている ②人権配慮の視点から、障碍者や先住民などとならんで女性が挙げられている ③社会的合意のプロセスに女性の参加が弱いことへの注意喚起がされているとのことです。すなわち、女性を脆弱なグループに位置付け配慮の対象となっていますが、既に開発協力大綱や国際的な公約に示されている女性のエンパワメントや女性の権利の尊重については明示されていません。ガイドライン改定を通じてこれらの理念を実効性のあるものにすることが課題とのことでした。
しかし、これまでの環境社会配慮ガイドライン改定の議論(4月13日資料)では、ガイドラインは個別事業を対象にするとの位置づけで、ジェンダーについては「負の影響を排除する」ことに留まっており、開発協力事業を通じて女性の権利の実現を進めるという視点が欠けているとのことです。ガイドラインがジェンダー平等を積極的に推進するものとなるようぜひご意見を出していただきたいとのことでした。
次にあげられたのは、ジェンダー分析をどう入れるかということでした。これは非常に重要ですが、現在のところJICAは、ジェンダー配慮は社会的な脆弱性への配慮の一環としておこなうという姿勢を保持しているとのことでした。ジェンダー分析は改定ガイドライン案の別紙5現地ステークホルダー分析に含まれているはずですが、そこにはジェンダー分析という言葉は書かれていないそうです。この点について今後多くの意見が出されれば前に進めることができるのではないかとのことでした。
3つ目に性的搾取・虐待及びセクシャルハラスメント、ジェンダーに基づく暴力があげられました。現行ガイドラインではこれらの文言には触れられおらず、また、改定案でも公開されている最新の資料には含まれていないとのことです。織田さんは、『PSEAH性的搾取・虐待・ハラスメントからの保護実践ハンドブック』などを通じて蓄積されたNGOの知見を反映させるよう、NGOから意見を出すことが大切と言われました。
4つ目にあげられたのは性的指向、性自認に基づく性的マイノリティへの配慮および複合的・交差的脆弱性に対する配慮をガイドラインにどう示すかでした。現在はFAQへの追記という方向性が出されていますので、これにどのような表現を書き込むのが良いか、意見を出すことが重要となります。
まとめると、改定ガイドラインに関するパブコメの論点の第一は、マイナスの影響を及ぼさないようにという現在の消極的姿勢を、今回ガイドラインの理念に追記された「ジェンダー平等の達成を後押しする」を具体化し積極的なものにすることです。また、ジェンダー分析、ジェンダーに基づく暴力、性的搾取・虐待の文言を、ガイドラインに明記する必要があります。さらに議論が十分ではない性的少数者および交差的脆弱性について、どのように記載するのがふさわしいかについてNGOの皆さまからのご意見に期待していると述べられました。
*詳細は以下のプレゼンテーション資料をご確認ください
2010年に公布・施行した環境社会配慮ガイドラインと同時に「環境社会配慮ガイドラインに基づく異議申立手続要綱」が公布・施行されています。異議申立手続の目的は2つあり、ガイドラインの不遵守を理由とする異議申立が行われた場合、遵守・不遵守に関する事実を調査し、その結果をJICA理事長に報告することと、ガイドライン不遵守を理由として生じた環境・社会問題の紛争において、当事者間の対話を促進することです。また、異議申立を中立的に調査するため、JICA理事長直属の「異議申立審査役」が審査を担当することになっています。
異議申立手続は、多国間、二国間の援助機関に共通の手続ですが、公正かつ独立の立場での異議申立の審査を可能にするための各機関間の情報交換を行う仕組みとしてIAM(Independent Accountability Mechanisms)が2004年に設置されました。IAMには、世界銀行をはじめ、アジア開発銀行、国際協力銀行(JBIC)など主要な援助機関が参加しています。当初は異議申立への対応、異議申立に係る紛争解決に関する情報共有、意見交換が中心でしたが、最近は、異議申立の回避・未然防止に議論の重点が移っています。
今回の改定に際し、主要な論点として、以下の三点が報告されました。① 環境社会配慮ガイドライン実施部門と連携した異議申立を回避するための具体的措置 ②異議申立の審査役の独立性・中立性の担保の必要性 ③事後モニタリング実施時期における異議申立の可能性。
鈴木さんは、上記論点に関しては、今回の改定で多くの改善が提案されることになったと説明されましたが、同時に異議申立人が社会的に不利な立場に立たされないような保護策等について十分な配慮がなされているか等NGOの皆さんに注目し、検討していただきたいと伝えられました。
*詳細は以下のプレゼンテーション資料をご確認ください
最後、日本国際ボランティアセンターの今井高樹さんより、講師へのお礼とあわせ、現行のガイドラインにはJVCをはじめ、多くのNGOが関わってできた経緯があり、NGOへパブコメへの参加が呼びかけられました。また、内容だけではなく、その運用についてもしっかりモニタリングをしていくことの重要性が伝えられ、とくに、実際に現地で起きていることを見ながらモニタリングができるNGOの役割が大切になることが説明されました。
*今井さんの質問と登壇者からの回答については、他の質問事項と合わせて、質疑応答の欄からご確認ください
最後に、共催団体を代表して、中島隆宏(名古屋NGOセンター)から 、諮問委員のみなさんがJICAに対して意見を表明されてきたことについて謝意が述べられました。ODAの実施機関であるJICAのガイドラインを、理念だけでなく人々の視点にたって具現化させることが私たち市民社会の役割であり、現地の住民の声を日本の市民社会に届け、ODAの負のインパクトを減じて、弱い立場の人たちの人権や環境が保たれることにともに参加していきたいと思います。
市民社会としてもパブコメに積極的に参加し、ガイドラインがより良いものになるよう、最大限機能するように貢献していきたいと思いますので、みなさまにもぜひ参加してください。
【参照ウェブサイト】
JICA環境社会配慮ガイドライン
https://www.jica.go.jp/environment/guideline/pdf/guideline01.pdf
JICA環境社会配慮ガイドラインの改定に関する諮問委員会
https://www.jica.go.jp/environment/guideline/advisory_board.html
JICA環境社会配慮ガイドラインの包括的検討
https://www.jica.go.jp/environment/guideline/consideration.html
共催団体を代表し、高橋美和子(関西NGO協議会)から、現在のODA/行政とCSOの対話の場として、以下の5つの定期協議会の枠組みが紹介されたました。JICA社会配慮ガイドラインについては、NGO-JICA協議会で継続して報告・協議事項として取り扱われており、次回協議会においてもパブコメに関する報告が期待されます。
協議会名 |
NGO側実施主体 |
NGO側事務局 |
NGO-JICA協議会 |
NGOコーディネーター ●NGO正会員制度 |
関西NGO協議会(高橋) 【正会員申し込み】https://bit.ly/3hrpwMl |
NGO-外務省定期協議会 https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shimin/oda_ngo/taiwa/kyougikai.html |
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ODA政策協議会 |
NGOコーディネーター |
CDを務めるネットワークNGOにお問い合わせください*名古屋NGOセンター、NCiS、JANIC、埼玉NGOネットワーク、HIF、ODA改革ネットワーク |
連携推進委員会 |
NGO連携推進委員 ●NGO正会員/賛助会員制度 |
JANIC(堀内・角田) |
財務省・NGO定期協議 |
JACSES(田辺) |
|
環境省と環境NGOの意見交換会 |
グリーン連合 |
グリーン連合 (環境NGO・NPO・市民団体の全国ネットワーク) |
質疑応答の内容については、下記PDFからご確認ください。
【共催】関西NGO協議会、国際協力NGOセンター、名古屋NGOセンター