NPO、企業、教育、行政、議員、市民など100名を超える参加者、あべのハルカスで「子どもの貧困」をテーマにシンポジウムを開催

5月11日(金)に、あべのハルカス23階にある大阪大谷大学ハルカスキャンパスで、シンポジウム「セクターを超えて 考える 取り組む 誰も取り残さない社会 ~持続可能な開発目標(SDGs)と子どもの貧困~ 」を開催しました。NGO、NPO、企業、教育関係、行政、議員、市民など約100名にご参加いただき、子どもの貧困やSDGsへの関心の高さを再確認する機会となりました。

 

海外と日本に共通する「子どもの貧困」をテーマに、NPO、NGO、企業、行政、教育機関といった各分野からゲストをお呼びし、193カ国が合意した世界共通の目標である「持続可能な開発目標(SDGs)」の基本理念になっている「誰も取り残さない社会」や「パートナーシップ(連携)」についてマルチステークホルダーで考えました。

パネルディスカッションに先立って、パネルディスカッションのファシリテーターと各ゲストから事例や活動を報告してもらいました。

シンポジウムの様子

子ども支援団体がSDGsに取り組む2つの効果

(講演「持続可能な開発目標(SDGs)と子ども」)

まずは、パネルディスカッションのファシリテーターを務めた岡島克樹さんから、持続可能な開発目標(SDGs)の概要説明として、17のゴール、5つの特徴(普遍性、統合性、構造的変革志向性、モニタリング可能性、強化された正当性)について紹介がありました。

子ども支援をする団体がSDGsに取り組む意義として、2つの効果を取り上げています。「認証促進効果」と「イノベーション促進効果」です。「認証促進効果」というのは、これまで必ずしもその重要性を正確に捉えられていなかった社会的な課題に対して、SDGsによってその重要性をより正確に認識されるという効果のことです。「イノベーション促進効果」のイノベーションは、科学技術のイノベーションだけを指しているのではありません。社会のなかでのつながりを変化させ、より効果の高い取組へとつなげることの重要性を指摘しています。ライツ・ベースド・アプローチ(人権基盤型アプローチ)の実践が求められるSDGsでは、子どもは保護の対象のみならず権利の主体となり、つながりが変化します。

基調講演をする岡島克樹さん(大阪大谷大学)

子どもの現状、西成高校の場合

(事例報告「教育現場から見えてくる子どもの現状」)

大阪府立西成高等学校の森ゆみ子さんからは、教育現場から見えてくる子どもの現状についての事例報告です。西成高校は地域の声によって作られた「地域に根差した学校」で、その地域性からさまざまな困難、厳しい生活背景を持った生徒たちが通っています。2006年から生徒の自立を支援することを理念にし、「格差の連鎖を断つ」ことを目指している学校です。

生徒たちの現状を把握するために、虐待の有無や障がいの態様、外国籍ルーツなどといった情報だけでなく、学級のなかの服装や身だしなみ、友人関係、言葉遣い、授業中の様子、学力、昼食、う歯や疾病などの健康状況、保健室の来室頻度、諸費の支払い状況などを注意深く観察していることの紹介がありました。

新入生と卒業生の事例をもとに、子どもの現状についての報告です。新入生の事例では、週に2日ほど理由なく欠席し、昼ごはんを食べていない生徒の事例です。この生徒は、母子家庭の生活保護世帯で、幼児3人のきょうだいがいます。本人は保護者の養育困難により、入学前にこども相談センターに一時保護経験があります。学校納入金の支払いがなく、書類の提出も困難であったことが取り上げられていました。このような生徒の家庭環境がわかると、このまま見守っているだけでは進級・卒業できなくなってしまいます。ケース会議を開催し、こども相談センター、在住区の子育て支援室、きょうだいの保育所、中学校関係者など関係機関と連携をとり、課題を把握しどのような支援を実施するか検討します。

経済、助けを求めることができる人、他の支援など、さまざまな点でつながることができれば、生徒の生き方に広がりや選択肢が増えます。つながりを回復することが自尊感情を高めることになり、社会の中で自立して生活することができるようになると考え、学校として支援に取り組んでいます。

四者四様の子ども支援/子どもの貧困対策

「SDGsと子ども」(講演)、「教育現場から見えてくる子どもの現状」(事例報告)に続いて、各登壇者から活動紹介です。NPO(国内)、行政、企業、NGO(海外)の各分野のゲストからそれぞれ10分間という短い時間で、要点をコンパクトにまとめて発表してもらいました。

一般社団法人Collective for Childrenの河内崇典さんからは、5団体の連携による子ども支援の活動紹介がありました。3億円という日本財団による助成金を基に、兵庫県尼崎市で経済的困難な状況下の子どもや若者に教育クーポンを配付しています。そのクーポンは、子どもたちの多様なニーズにこたえるため、200以上の学習塾や水泳、ピアノなどの習い事、一時保育や相談支援等などの支払いに利用できます。地元企業も子どもの貧困に問題意識を持ち、この活動に積極的に参加している点も特徴となっています。ただ、クーポンを配布するだけでなく、クーポンの活用サポートや家庭の相談等、子ども・若者相談員がついているところが他の活動と異なる点です。

大阪市こどもの貧困対策推進室の青柳毅さんからは、大阪市が取り組んでいる「こども支援ネットワーク」と「大阪市こどもサポートネット」の紹介です。こども支援ネットワークは、子どもの貧困に取り組むNPOや団体と、企業などの支援団体や社会福祉施設のネットワークを構築することで、社会全体でこどもを支える仕組みになります。一方、大阪市こどもサポートネットは、学校における気づきを区役所や地域(民生委員や商店など)につなぎ、地域で子どもと子育て世帯を支える取り組みです。このほか、大阪市では2018年度(平成30年度)に36事業7億800万円のこどもの貧困対策関連事業が計画されています。

株式会社アシックスの福成忠さんからは、同社のCSR・サステナビリティ活動の紹介がありました。「コミュニティへの貢献」(スポーツを通じた社会への貢献)は、アシックスのCSR・サステナビリティ活動の柱のひとつであり、社名(ASICS)の由来になっているAnima Sana In Corpore Sano(健全な身体に健全な精神があれかし)の理念の実現にほかなりません。スポーツには、健康増進や体力・技術の向上だけでなくフェアプレイ精神の醸成やチームワーク、交流、団結といった力があります。日本国内では体育が教育システムに取り込まれ、さらに部活やスポーツクラブなど課外活動も盛んである一方、海外では体育館やプールがない学校も多く体育への認識が高くない現状の紹介がありました。

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの田代光恵さんからは、岩手県や宮城県で取り組んでいる子どもの貧困問題解決事業を紹介してもらいました。セーブ・ザ・チルドレンと聞くと海外の途上国での子ども支援に取り組んでいる印象が強いですが、日本国内の子どもたちへの支援活動は2003年から始まっています。子どもの貧困問題解決事業は、制服や運動着の購入費用の一部として給付金の支給やひとり親家庭の保護者への情報提供・つながり形成といった「直接支援」、調査やシンポジウム、情報発信を通じた「社会啓発」、政策や施策を充実させるための「政策提言」というように、「直接支援」「社会啓発」「政策提言」を柱にした子どもの権利に基づくプログラミングという考えに基づいて行われています。

「誰も取り残さない社会」を実現するための仕組みづくり

そして、いよいよこれまでに講演、事例報告、活動紹介した6名によるパネルディスカッションです。「子どもの貧困」という共通の社会的課題をテーマにディスカッションを行いました。

パネルディスカッションの様子

・西成高校には生徒支援室という他の学校にはない部門があります。10年ほど前から生活背景に困難を抱える生徒がいました。担任の先生だけでは対応できないこともあり、生徒支援委員会というものを設置していました。12~13人の教員からなる生徒支援委員会の役割は、生徒に卒業してもらうように支援することです。貧困状態にある生徒が増えてきたことから、今年から生徒支援室として制度化されています。(森ゆみ子さん)

・クーポンや相談支援を受けた子どもたちの幸福度や自己肯定感がどのように変化するのかなど、活動の効果をみていきたいと思っています。Collective for Childrenに参加しているNPOが持っている社会資源、たとえば企業とのネットワークや資金調達のノウハウを活用して、運営の持続可能性を考えていきたいと思っています。また、尼崎市とは、ふるさと納税の制度を使って、クーポンの財源にできないか議論を始めていきたいと思っています。(河内崇典さん)

・尼崎には子ども食堂なども多く、地域に根差した活動をされている団体同士のネットワークも比較的強い地域です。ただ、クーポン利用先になっている塾やスイミングスクール、そろばん、習字、英会話、など、地域の民間事業者は子どもの貧困に対する関心が高い一方で、子どもへどのような支援ができるのかわからないということも聞きました。クーポンの利用先事業者を増やしていくことはもちろん、地域の中で子どもたちがおかれている現状を発信・共有していくこと、子どもたちとつながっている地域の事業者も含めたネットワークを作っていく必要性を感じています。NPO同士だけでなく、地域の様々なステークホルダーとともに、尼崎の子どもの貧困の連鎖解消を考えなければ、と思っています。(河内崇典さん)

・行政が政策を実施する中で賛成と反対に分かれることが多いが、子どもの貧困対策事業については明確な反対はありません。しかし、施策の優先度については議論があります。7億800万円の全体予算のうち、大阪市子どもサポートネットに1億7000万円を計上しています。すでに行動ができているところは、学校と地域の連携が強かったところです。先行する地域を参考にして、学校職員の繁忙さもあることから、福祉職員やスクールソーシャルワーカーを配置し、学校と地域のつながりを支援しています。(青柳毅さん)

・被災地では物理的にスポーツする場所がない、学校から遠いところに避難せざるを得ず通学に時間がかかりスポーツする時間がない、スポーツする仲間やコミュニティがない、といった状況があります。地元の行政や草の根の団体とともにプログラムを作成し、場所やコミュニティを作る支援に取り組んでいます。(福成忠さん)

・アシックス社内でSDGsの認識はまだ低いのが実情です。アシックスの4分の3が海外事業になっています。グルーバルな社会的課題へのアプローチについては、海外からの要望を強く感じています。(福成忠さん)

・子どもの権利条約では子どもの最善の利益を保障していくことが明記されています。それを実践するためには、子どもから意見を聴く取り組みが必要です。子どもの貧困問題解決事業において、どのように子どもたちを傷つけず意見を聴いていけるか、参加の仕組みを作っていけるのかは悩んでいるところです。これまで行った子ども参加事業としては、東日本大震災の復興における子ども参加があります。セーブ・ザ・チルドレンでは子どもも復興の担い手と考え、岩手と宮城で子どもたち1万人に「あなたはまちのために何かしたいか」というアンケート調査をしました。結果は、8割の子どもたちが何かの方法で貢献したい、7割の子どもたちが誰かと復興について話をしたいというものでした。震災直後、2011年5月のことです。このような状況から、子ども参加によるまちづくり事業を行いました。普段から活発に見える子どもたちだけではなく、控えめに見える子どもたちもまちのために何かしたい、と参加し、発言していました。子どもたちは変革の主体として、役割を担っていたと思います。また、地域・行政には、子どもたちは次世代を担うだけではなく、今を一緒に生きているパートナーという認識が生まれたと思います。(田代光恵さん)

「SDGsとは何か」から「SDGsを活動にどう活かすか」(まとめ)

SDGsの理念になっている「誰も取り残さない社会」を実現するためには、ゲストの皆さんから報告・紹介してもらったように支援のしくみを作り上げることが重要です。現行の制度を変えなければ、持続可能な社会を生み出すことはできません。そのような意味では、しくみを制度化する働きかけ(政策提言・アドボカシー)がさらに必要になると思います。

このシンポジウムの企画・実施にあたっては、マルチセクターで構成される運営委員会を設置し取り組みました。企画者がマルチセクターであれば、NGO単独で行うイベントより信頼性が高まり、登壇者(ゲスト)もマルチセクターへ呼びかけやすいことがわかりました。また、登壇者がマルチセクターになれば、参加者もマルチセクターになります。イベントそのもの出会いの場になり、連携/パートナーシップのきっかけになる可能性を感じました。

当協議会が受託したJICA NGO等提案型プログラムの一環として、研修の実践と紹介を兼ねて、当シンポジウムを開催しました。2018年秋から始まる研修では「SDGsとは何か」を超えて、「SDGsを活動にどう活かすか」を考えるものになります。ぜひ、ご参加ください。

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