NGOからの提言

2003年1月31日 関西NGO協議会

川口外務大臣が2002年2月に発表した「外務省改革のための10項目」には、「NGOとの対話」という項目が含まれている。

関西NGO協議会としては、政府とNGO間の対等なパートナーシップに基づいた協力関係の構築に向けての明確な意思表明として歓迎したい。

この「対話」の場が、これまでNGO が蓄積してきた国際協力における経験と知見を外務省と共有し、日本による政府開発援助が、今後、 より効果的かつ具体的に世界の平和と福祉に貢献するものに改善されていくための話し合いの機会となるよう、関西NGO協議会は強い期待を表明する。

実際の「対話」においては、以下のような討議事項が盛り込まれることを関西NGO協議会は提案する。

ODAの理念と目的

1)  理念と最重要課題の明確化。 「政府開発援助大綱」(以下、ODA大綱)に示されている4項目の基本理念、及び「政府開発援助に関する中期政策」(以下、中期政策) に示されている基本的考え方は、何がODAの最重要理念なのか、何を最重要目的としてODAを実施するのかという点で、明確さに欠ける。

例えば、ODA大綱では、「開発途上国の離陸へ向けての自助努力を支援することを基本とし、広範な人造り、 国内の諸制度を含むインフラストラクチャー(経済社会基盤)及び基礎生活分野の整備等を通じて、 これらの国における資源配分の効率と公正や『良い統治』の確保を図り、その上に健全な経済発展を実現することを目的として、政府開発援助を実施する」 と記されており、中期政策では「経済成長は人間の福祉向上の手段として必要であり、『人間中心の開発』は持続可能な開発を実現するために不可欠である」 と記されているが、これらの文章から日本のODAは何を最重要の目標とするかを明確に理解することは非常に困難である。

過去50年間に実施してきた開発協力を振り返り、その効果を検証するなかで、国連やDAC は、経済成長中心主義から社会開発、 「人間開発」重視へと開発協力に取り組む姿勢を転換させつつある。 そのようなODAをめぐる国際環境の変化のなか、日本のODAも、「基礎生活分野の整備」「人間中心の開発」「持続可能な開発」 等の言葉を用いながら基本理念を語るようにはなっている。 しかし、前に引用した文章からも明らかなように、理念として提示されているのは、世界の潮流となっている用語をちりばめた、 どのようにでも解釈できる文章であり、非常に不明瞭な理念と言わざるを得ない。

今後、日本のODAは、より明確に貧困の撲滅や人間の福祉の実現を理念及び最重要課題として明確にするべきではなかろうか。 対象となる地域の文化や価値に十分な配慮を払いながら、最も困窮した状態に置かれている人々の福祉の向上を支援するという理念が必要である。

また、2002年12月に外務省が発表した「ODA大綱の見直し」については、それまでのODA改革案に全く含まれていない項目であったことを考えると、 見直しが決定された理由について誰もが納得できる説明が必要である。 また、見直しに当たっては、現行の大綱が理念と原則に沿って適正に運用されたかどうかの評価がまず必要であると考える。 報道では、国益志向の明確化、戦略的活用の重要性、軍事的用途への使用回避の柔軟解釈といった言葉が盛り込まれる可能性が指摘されている。 このような方向性をみると、日本の経済的安定と安全保障を追求するための道具としてODAを活用することを明確に示すための見直しではないかとの 懸念を表明せざるを得ない。 とりわけ国益については、生存を脅かされるような貧困状態を根絶するという地球全体の利益に貢献することが、 ひいては日本が世界で尊敬され他の国々や人々と共存することにつながるという長期的かつ広い視野で捉える観点が重要であると考える。

2)「新開発戦略」で示されている国際開発目標(International Development Goals)へのコミットメント強化。 経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)が策定した「新開発戦略」は、日本もその策定に主導的役割を果たした旨、中期政策に記されている。 「新開発戦略」については、策定から5年以上が経過し、特に2005年に向けての目標については達成期限が迫っているなかで、戦略策定当時の熱意がドナー、 国際機関から消え失せつつある感が強い。 中期戦略では「目標を念頭に置き…ODAに取り組むものとする」という曖昧な表現でしか実際のコミットメントについては語られていない。 21世紀に向けての開発の最重要課題として設定された国際開発目標の達成について、多額のODA拠出国である日本は、策定に深く関わった責任からも、 より積極的に達成に向けた努力を行うことが必要である。

3) 20/20イニシャティブへのコミットメント強化。 国連社会開発サミットで合意された20/20イニシャティブは、途上国における基礎的な社会ニーズへの支援強化に向けた国際的な合意事項であるが、 日本はDAC加盟国中、当イニシャティブへの貢献が際だって低い。 DAC資料によれば、1997/98年における二国間援助における基礎社会サービス分野への支出割合は3%にすぎず、 DAC加盟21カ国中最低である注(1)。 しかしながら、「我が国の政府開発援助2000年版」には、「我が国二国間援助における社会開発分野の割合は、 1993年以降1998年までの各年においていずれも20%を上回り、20/20協定の目標は達成されている。」(325ページ)との記載があり、 DAC発表の数字と大きく食い違っている。 これは、20/20イニシャティブの対象となる基礎社会サービス(Basic Social Services)の定義に齟齬があるためと思われる。 社会開発の核として基礎的な社会サービス(基礎教育、プライマリーヘルスケア、栄養改善、飲料水供給・衛生) への支援強化を打ちだした国際的合意である20/20イニシャティブへの真剣なコミットメントが必要である。

実施の枠組・体制

4) ODA基本法の制定。 閣議決定という法的位置づけが曖昧なODA大綱に代わり、国会での承認を経たODA実施の基本的な枠組を示す基本法の制定が必要である。 基本法には、理念・目的を始め、立案・審査・実施・評価メカニズムの大枠、国会への報告義務、情報公開規定、 政府から独立しNGO等が参加する審査・評価パネルの設置規定等を含むこととし、ODAに関わる基本姿勢と実施の枠組を明確に示す。

5) 重要分野におけるガイドラインの制定。 基本法の理念に沿い、環境、ジェンダー、立ち退き、先住民族等の重要分野に関するガイドラインを制定する。 ガイドラインは努力目標として掲げるのではなく、ガイドラインに即したアセスメントの結果によって、ODA実施の停止、 中止勧告規定を含む実効力を備えたものとする。ガイドラインの策定にあたっては、NGOや広い層の人々の参加を確保する。

6) 実施体制の一元化。 日本のODA予算は他省庁にまたがり、実施機関は国際協力銀行(JBIC)と国際協力機構(JICA)ならびに各省庁の外郭団体に分かれているなど、 ODA行政が細分化されていることが、ODAの効果的実施の妨げとなり、また、責任ある実施体制を組めない要因となっている。 ODA行政を首相直属、あるいは一省の管轄下に置き、国際機関への拠出を含めたODA予算を一元的に管理することによって、 責任の所在が明確な体制の下で効率的かつ効果的にODA行政がおこなえるようにする。 なお、新たな行政機関を設置するのは、行政改革のもとで省庁や政府系特殊法人の統合がおこなわれている現在の流れに逆行するものという意見も聞かれるが、 ODA行政が細分化されたまま行われていることの方が、よほど行政改革の趣旨に反するものであり、ODA行政の一元化は、 行政の効率化という観点からも是非とも必要である。

7) 対等なパートナーシップに基づいたNGOとの協力。 ODAの政策形成、実際の事業実施の双方で、NGOを対等なパートナーとして認識し、政策形成及び事業実施にNGOの参加を保障する。 政策形成においては、限られたNGOからの意見聴取をもって NGOの参加とするのではなく、 市民やNGOからの幅広い声が反映されるような参加のメカニズムが必要である。 また、事業実施においては、小回りのきく下請け組織としてではなく、現地の文化や状況に精通した、 大使館や本省では知り得ない専門的知見を蓄積した組織としてNGOを認識するべきである。 さらに、アフガン復興支援会議でも露呈したNGOとの対等な関係の脆弱さに鑑み、 NGOとの対等なパートナーシップについての理念を明らかにした合意/コードの策定が必要である。

以上

注(1) 出典: DCD/DAC/STAT(2000)7